マンション建替えと再生にまつわる法律上のパラドックス

ゼノンというギリシアの哲学者がいます。4つのパラドックスで知られる彼ですが、一番有名なのは「アキレスと亀のパラドックス」というお話でしょうか。亀という何とも不釣り合いで愛嬌あるキャラクターの存在も、このパラドックスを有名にしている理由の一つなのかもしれません。私なりに少しだけわかりやすくデフォルメしてお話しますと、

アキレスと亀がいた。ある日アキレスと亀は100メートルの徒競争をすることになった。亀は歩みが遅いので、ハンデをもらってアキレスより10メートル前からスタートすることになった。

 徒競争がスタートした。アキレスは亀のスタート地点である10メートル地点にあっという間に到達したが、その間に亀は10センチ前に移動していた。次の瞬間、アキレスはさらに10センチ前に進んだが、亀はその瞬間に1ミリ前に進んだ。その次の瞬間、アキレスはさらに1ミリ前に進んだが、亀はその瞬間に0.01ミリ前に進んだ。さらにその次の瞬間、、アキレスはさらに0.01ミリ前に進んだが ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さて、アキレスと亀がずっと同じペースで走り続けるとすると、果たしてアキレスは亀に追いつくことができるのか?

 

数学的に考えると実にナンセンスな感じを受ける問題ですが、これは「ある量を無限に分割することができる」と「ある量は無限に分割しうる量からなる」とが実は命題として別個のものだということを示し、師のパルメニデスが掲げていた「一」と「不動」の存在を弟子のゼノンが理論化しようとして発案したパラドックスだったのです。ゼノンは背理法を考案した人としても知られていますね。

 

ところで、こちらにも興味深いパラドックスがあります。

昭和30年~40年代にニュータウン地区などに多数建築された団地型区分所有建物は,①築年数が40年~50年を迎えて躯体や設備の老朽化が進んでいること、②専有部分の間取りが十分な面積に欠けるなど、今日の居住ニーズに必ずしも合致していないこと、③鉄道駅からバス利用を要する場所にある場合も多く交通アクセスに必ずしも恵まれていないことがある、などの事情が重なり、世代の交代につれて空き住戸の割合も増えつつあります。こうした状況の中、団地の付加価値を増やすために、従前住居部分だった複数の専有部分をスケルトンリフォーム(壁やスラブを取り壊して一からリフォームすること)して連結することによって延床面積を増やし、カフェやアトリエ、あるいはメゾネットタイプの住居として利用すると手法が注目されています。

ところで、このようなリフォーム工事は専有部分の増築や共用部分の廃止を伴うので、単なる共用部分の重大変更(区分所有法17条1項)といえないことは明らかです(区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数決では足りない、ということです)。では、このリフォーム工事というのはいずれにしても区分所有法に定める建替えほどの規模を伴う工事ではありませんから、区分所有法の建替え規定(62条)に従い、区分所有者及び議決権の各5分の4以上の賛成を得れば行うことが可能でしょうか?

答えはNOです。このリフォーム工事が区分所有建物の「建替え」にあたらないということは、建替えの通常の意味というものを考えていただいても明らかだと思います。建替えは当然マンションの建物全体の取り壊しを伴うものだからです。では、いったいどのような法律上の要件を満たせば、このようなスケルトンリフォーム工事が可能になるのでしょうか?

答えは「全区分所有者の同意」です。壁、柱、梁、スラブといった共用部分を含むスケルトンリフォームは、共用部分の共有者(区分所有者)による「共有物の処分」にあたるので、民法251条により、これを行うには区分所有者全員の同意が必要となるのです。

マンション全体を取り壊して建替えるのは5分の4の同意でできるのに、共用部分も含めてスケルトンリフォームを行おうとすると区分所有者全員の同意が必要になる・・マンションの再生建替え分野におけるいわずとしれたパラドックスです。

 しかし残念ながらこのパラドックスは大胆なマンションリフォームを企画する際にこれを妨げる要因の一つとなっているようです。立法の方でもいまだ議論が進んでいないようで残念でなりません。ゼノンのそれとは違い、こちらのパラドックスを歴史に残しておく積極的な理由は乏しいといわざるをえないところですが――

 

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