不在組合員に対する賦課金支払請求の可否

Q. 最高裁平成22年1月26日判決というものが出て,マンションに不在の組合員に対して,協力金という名目で通常の管理費等以外のお金を賦課することが認められたと聞きました。弊マンションは不在組合員も多く,役員の負担等管理の手間が一部の現住区分所有者に偏っていますので,不在組合員との公平を図るためにも是非このようなお金を不在組合員に賦課したいと考えています。毎月いくらくらいまでなら許されるのでしょうか。

A. このようなご質問をよく耳にします。

しかし,注意していただきたいのは,現住組合員と不在組合員との不公平感の調整の一般的な手段として,このような「協力金」(名目は色々考えられるかと思います)名目での不在組合員に対するお金の賦課が認められたというわけではないということです。上記判例となったケースも,実に複雑な事情と経緯とを抱えており,判例もそのような諸事情を実に細かく検討しています。残念ながら,一律に賦課金月額いくらまでならOK,とお答えできる状況には,まだまだなっていないというのが実情です。

最高裁平成22年1月26日判決については下記をご覧ください。

最高裁平成22年1月26日判決の概要

事案の概要

本件管理組合の規約では、不在組合員は理事会役員になれない(ただし、3親等内の同居の親族がいる場合にはその者が代理できる)と規定されていた。ところが、管理組合の高齢化が進み、また、総戸数868戸のうち180戸もの賃貸化、不在化が進んだため、一部の在住組合員に役員等の管理責任が過重な負担となり、不在区分所有者との間での不公平感が生じてきたことから、管理組合の運営にも困難をきたす事態となった。

そこで、この不公平感を是正すべく平成16年3月の総会で不在組合員に対してのみ月額5、000円の協力金を求める規約改正決議を可決し、平成16年4月から徴収が始まった。

その後、平成19年3月の総会では、翌月平成19年4月から住民活動協力金として月額2、500円へ減額し、あわせて徴収済みの協力金については遡及して月額2、500円分を返還する旨を定める規約改正決議が可決された。

管理組合は、滞納不在区分所有者を相手取ってこの住民活動協力金及び遅延損害金の支払いを請求する訴訟を提起したが、不在区分所有者側は、上記規約変更は区分所有法31条1項後段にいう「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすとき」に該当し、「承諾」がないから規約変更決議は無効であるなどと主張した。

最終的には住民活動協力金の支払請求が認められた。

判示事項

2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。

(1) Bコーポ(以下「本件マンション」という。)は、昭和40年代に大阪市住宅供給公社が建築、分譲した14階建ての区分所有建物4棟からなる総戸数868戸のマンションである。

(2) 上告人は、本件マンションの建物、敷地及び附属施設の管理を行うために本件マンションの区分所有者全員で構成された団体(法65条)であり、法に基づく規約(法65条、68条1項)を定めている。

上告人には、役員として、理事長1名、副理事長2名、理事25名及び監事4名が置かれている。理事らは、月1回は定例の理事会を開催するほか、臨時に理事会を開催することもあり、理事会において、上告人の業務の執行につき必要な事項を決定している。

上告人は、その規約上、本件マンションの敷地及び共用部分の維持管理、変更、これらに付随する一切の業務を行うとともに、円滑な共同生活と良好な住環境の維持運営に関する業務を行うものとされており、組合員がその構成員の主体をなす各種団体(老人会等)に、その業務を分掌させることができるとされている。上告人の役員や上記団体の構成員は、従前、これらの業務をすべて無償で行っていた。

(3) 上告人の役員は、その選挙規程により、区分所有者、その配偶者又は3親等以内の同居の親族であり、かつ、本件マンションの居住者である者の中から選任されるものとされており、そのため、自らその専有部分に居住しない区分所有者(ただし、配偶者、3親等以内の親族を居住させる者を除く。)は、上告人の役員になることがない(以下、上記の区分所有者を「不在組合員」といい、その余の区分所有者を「居住組合員」という。)。

(4) 上告人の組合員は、規約及び同施行細則上、共益費、土地・電気室・ポンプ室・管理事務所・集会所に係る公租公課、修繕積立金、上告人の業務執行に関して組合員が共同して負担しなければならない費用に充てるため、組合費を負担すべきものとされており、組合費は、1戸当たり一律に月額1万7500円(内訳は、一般管理費8500円及び修繕積立金9000円)とされ、毎月6日までに当月分を納入しなければならないとされている。

(5) 本件マンションは、分譲後20年を経過したころから、空室状態となっている物件や第三者に賃貸される物件が増加し、平成16年ころには、多数の不在組合員(専有部分の総数約170戸)が生じていた。

そのため、居住組合員の中には、不在組合員が上告人の理事等の役員に就任せず、上告人の運営の負担が居住組合員に偏っていること、居住組合員が上告人の活動を通じて本件マンションの保守管理や良好な環境の維持に努めているのに、不在組合員はこれに協力していないことなどに不満を持つ者が現れるようになった。

そこで、上告人の理事会は、不在組合員に上告人の運営に係る負担の一端を担わせる方法として、平成16年3月開催の総会(以下「平成16年総会」という。)において、不在組合員は1戸当たり月額5000円の「協力金」を負担し、これを組合費と共に納入しなければならないとする規約及び同施行細則の変更を提案した。この提案は、不在組合員の一部から反対意見が出されたものの、法66条、31条1項前段の可決要件である団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数で可決された。

(6) 亡Aは、平成16年総会当時から、本件マンションC701を所有し、これを第三者に賃貸している不在組合員であった。


(7) 上告人は、平成16年8月以降、亡Aを含む当時の不在組合員(専有部分の総数181戸)に対し、上記協力金の支払を求めたところ、倒産等により支払がされなかった6戸を除く175戸の区分所有者のうち、158戸の区分所有者はその支払に応じたが、17戸の区分所有者がその支払を拒否した。上告人は、その後も支払を拒否し続けた亡Aを含む不在組合員7名(専有部分の総数14戸)に対し、順次、その支払を求める訴訟を提起したところ、上記各訴訟の第1審判決の判断が分かれ、一部の訴訟の控訴審において、裁判所から、「協力金」を月額2500円とする和解案が提案された。

そこで、上告人の理事会は、平成19年3月開催の総会(以下「平成19年総会」という。)において、「協力金」を「住民活動協力金」と名称変更し、その額を遡及的に1戸当たり2500円とする規約及び同施行細則の変更を提案した。同提案は、法66条、31条1項前段の可決要件である団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数で可決された(以下、平成16年総会及び平成19年総会の上記各決議による規約及び同施行細則の変更を「本件規約変更」という。また、本件規約変更により不在組合員が負担すべきものとされた月額2500円の金員を「住民活動協力金」という。)。不在組合員から支払われた住民活動協力金は、一般会計に組み入れられ、一般会計の繰越金は、修繕積立金として積み立てられている。

(8) 上告人から訴訟を提起された上記7名の不在組合員のうち2名(専有部分の総数2戸)は、住民活動協力金を支払う旨の訴訟上の和解をしたが、亡Aを含む5名(専有部分の総数12戸)は、なおその支払を拒否した。

(9) 上告人の理事会は、平成18年12月から、理事会の決議に基づき、役員に対し、役員手当を支払っていたが、規約上その支給根拠を明確化するため、平成19年総会において、役員は理事会の決議によりその活動に応じた必要経費と報酬の支払を受けることができるとする規約の変更を提案した。同提案は、法66条、31条1項前段の可決要件である団地建物所有者及び議決権の各4分の3以上の多数で可決された。

3 原審は、上記の事実関係の下で、次のとおり判断し、上告人の請求を棄却すべきものとした。

上告人においては、従来、役員がすべての区分所有者や居住者のために無償で上告人の事務や上告人の業務を分掌する各種団体等の活動を行ってきたが、精神的・肉体的にも負担であり、不在組合員がこれらの役職に就いて活動を行うことなく、居住組合員のみが一方的にこれらの活動を強いられるとの不公平感や不満を訴える者が増えてきたため、本件規約変更により、不在組合員に住民活動協力金として月額2500円の支払義務を課すとともに、規約の変更を同時に行って、これを主に役員の報酬や必要経費として支給することにしたものである。

そうすると、役員の上記精神的・肉体的な負担や不公平感は、上記の報酬の支給により補てんされることになったということができるところ、役員の諸活動は、区分所有者全員の利益のために日常的に行われるべきものであるから、役員報酬及びその必要経費の財源として、住民活動協力金を不在組合員と居住組合員との間に格差を設けて負担させる場合、不在組合員であるがために避けられない印刷代、通信費等の出費相当額を不在組合員に加算して負担させる程度であればともかく、その全額を不在組合員のみに負担させるべき合理的な根拠は認められない。

したがって、本件規約変更は、法31条1項後段にいう「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすとき」に該当し、亡Aの承諾がないから無効である。

4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

(1) 法66条が準用する法31条1項後段の「規約の設定、変更又は廃止が一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の団地建物所有者が受ける不利益とを比較衡量し、当該団地建物所有関係の実態に照らして、その不利益が一部の団地建物所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう(最高裁平成8年(オ)第258号同10年10月30日第二小法廷判決・民集52巻7号1604頁参照)。

(2) 前記事実関係によれば、本件マンションは、規模が大きく、その保守管理や良好な住環境の維持には上告人及びその業務を分掌する各種団体の活動やそれに対する組合員の協力が必要不可欠であるにもかかわらず、本件マンションでは、不在組合員が増加し、総戸数868戸中約170戸ないし180戸が不在組合員の所有する専有部分となり、それらの不在組合員は、上告人の選挙規程上、その役員になることができず、役員になる義務を免れているだけでなく、実際にも、上告人の活動について日常的な労務の提供をするなどの貢献をしない一方で、居住組合員だけが、上告人の役員に就任し、上記の各種団体の活動に参加するなどの貢献をして、不在組合員を含む組合員全員のために本件マンションの保守管理に努め、良好な住環境の維持を図っており、不在組合員は、その利益のみを享受している状況にあったということができる。

いわゆるマンションの管理組合を運営するに当たって必要となる業務及びその費用は、本来、その構成員である組合員全員が平等にこれを負担すべきものであって、上記のような状況の下で、上告人が、その業務を分担することが一般的に困難な不在組合員に対し、本件規約変更により一定の金銭的負担を求め、本件マンションにおいて生じている不在組合員と居住組合員との間の上記の不公平を是正しようとしたことには、その必要性と合理性が認められないものではないというべきである。

居住組合員の中にも、上記のような活動に消極的な者や高齢のためにこれに参加することが事実上困難な者もいることはうかがえるのであって、これらの者に対しても何らかの金銭的な負担を求めることについては検討の余地があり得るとしても、不在組合員の所有する専有部分が本件マンションの全体に占める割合が上記のように大きなものになっていること、不在組合員は個別の事情にかかわらず類型的に上告人や上記の各種団体の活動に参加することを期待し得ないことを考慮すると、不在組合員のみを対象として金銭的負担を求めることが合理性を欠くとみるのは相当ではない。また、平成19年総会における決議により、役員に対する報酬及び必要経費の支払が規約上可能になったものの、上告人の活動は役員のみによって担われているものではなく、不在組合員と居住組合員との間の上記の不公平が、役員に対する報酬の支払によってすべて補てんされるものではないから、そのことを理由として本件規約変更の必要性及び合理性を否定することはできない。

そして、本件規約変更により不在組合員が受ける不利益は、月額2500円の住民活動協力金の支払義務の負担であるところ、住民活動協力金は、全組合員から一律に徴収されている組合費と共に上告人の一般会計に組み入れられており、組合費と住民活動協力金とを合計した不在組合員の金銭的負担は、居住組合員が負担する組合費が月額1万7500円であるのに対し、その約15%増しの月額2万円にすぎない。

上記のような本件規約変更の必要性及び合理性と不在組合員が受ける不利益の程度を比較衡量し、加えて、上記不利益を受ける多数の不在組合員のうち、現在、住民活動協力金の趣旨に反対してその支払を拒んでいるのは、不在組合員が所有する専有部分約180戸のうち12戸を所有する5名の不在組合員にすぎないことも考慮すれば、本件規約変更は、住民活動協力金の額も含め、不在組合員において受忍すべき限度を超えるとまではいうことができず、本件規約変更は、法66条、31条1項後段にいう「一部の団地建物所有者の権利に特別の影響を及ぼすべきとき」に該当しないというべきである。

5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。この趣旨をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

そして、上記説示によれば、公序良俗違反等、本件規約変更の無効をいう被上告人らのその余の主張に理由がないことも明らかであり、上告人の請求は理由があるから、これを認容した第1審判決は正当であり、本件控訴は棄却すべきである。

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