マンションにおけるペット飼育問題③

今回も引き続きマンションにおけるペット飼育の禁止について考えてみましょう。

ペットの飼育が「共同利益違反行為」に当たるか

原則として、規約違反があったからといって、それが直ちに共同利益違反にあたるとは限りません。共同利益背反行為にあたるかどうかは,受忍限度の範囲を超えるかどうか、すなわち、「当該行為必要性の程度,これによって他の区分所有者が被る不利益の態様,程度等の諸事情を比較考量して決すべき」(東京高判昭和53年2月27日金法875号31頁)とされています。

もっとも、ペット飼育禁止規定違反の場合には、管理規約違反がそのまま共同利益違反に繋がる傾向があります。

裁判例においても、ペット飼育に対する考え方が異なる複数の区分所有者が存在するマンションにおいて、集会の決議によって、ペットの飼育を禁止することが、多数の意思により、確認されていたことが重視され、「具体的な被害の発生等がなくとも共同の利益に反する行為にあたる」と判断されています(東京地判平成19年10月4日。ウエストロー・ジャパン)。

また、東京地判平成8年7月5日(ウエストロージャパン)によると、「具体的な実害が発生した場合に限って規制することとしたのでは、右のような不快感等の無形の影響の問題に十分対処することはできないし、実害が発生した場合にはそれが繰り返されることを防止することも容易でないことが考えられる。したがって、規約の適用に明確さ、公平さを期すことに鑑みれば、右禁止の方法として、具体的な実害の発生を待たず、類型的に前記のような有形、無形の影響を及ぼす危険、おそれの少ない小動物以外の動物の飼育を一律に禁ずることにも合理性が認められる」とも判断されています。

区分所有者の中には、動物アレルギーを持っている可能性があることなどに鑑みると、区分所有者ら当事者の主観によって左右される要素が多く、具体的な被害の発生等を客観的・数量的に判断することは難しいと考えられますので、この結論は妥当であると考えられます。

ペットの飼育差止めが「権利濫用」!?

ペット飼育禁止規定が実質的に空文化している場合や、管理組合が不当な目的をもって差止請求する等、特段の事情が存在する場合には、権利濫用にあたると判断されます(東京地判平成13年10月11日)。

具体的には、ペット飼育禁止規定の多数の違反者が存在し、かかる違反状態が長期間放置されてきたような場合であるにも拘らず、特定の区分所有者が狙いうちにされるようなケースが想定されます。ここでもマンションにおける日頃からの適正な管理・維持が求められることになります。

なお、実務上は、管理規約の改正によりペット飼育禁止条項を創設する場合、従来からのペット飼育者に対して、例えば、規約改定時に生存するペット一代限りにつき飼育禁止を免除する等一定の猶予期間を与えることがあり、このようなペット飼育を従前から行ってきた区分所有者への配慮といった事情も権利濫用を否定する方向の事情として働きます。

義務違反者に対して採りうる措置1~差止請求、専有部分への立入請求

共同利益違反等の条文上の要件該当性が認められれば、行為の差止め請求は、認められることになります。

それでは、差止請求から一歩進んで、管理組合は、違反区分所有者によるペット飼育禁止義務の履行を確認するために、専有部分への立入りを請求することができるのでしょうか。専有部分は、外部からは観察することができません。仮に、ペット飼育の差止めを命じる判決が下されたとしても、当該義務違反の状態にある区分所有者が、ペットの飼育をやめたかを確認することは容易ではありません。そのため、管理組合としては、ペット飼育禁止義務の履行を確認するために、専有部分への立ち入りを請求することがあります。

しかし、裁判例は、このような専有部分への立入請求を否定しています(東京地判平成19年10月9日)。すなわち、裁判所は、「原告の請求は,被告に対し,原告が被告の所有物である本件建物に特段の期限の定めなく無条件に立ち入ることを管理組合の総会決議に基づいて強制しようとするものであり,被告の私生活上の自由を強度に侵害するものといわざるをえないからである。他方,本件建物から猫を退去させるとともに,消臭のための措置を執ることにより,被告による共同利益違反行為は当面停止,除去されることになるのであり,しかも,万一被告がその後本件建物内において新たに動物を飼育する行為に出たとしても,それは本件建物内において動物を飼育してはならないという不作為命令に違反する行為であるから,いずれにせよ強制執行により排除することが可能であると考えられるのである。これらの事情を考慮すると,被告に対し,動物の退去等の措置が履行されたことを確認するために,本件建物内への原告の立入りを受忍することを求める請求は,被告による共同利益違反行為を停止,除去ないし予防するために必要かつ十分な範囲を超えるものとして,許されないものと解するのが相当である。」であるとして、立入行為の権利侵害性が甚だしいという点と、立入りの必要性が認められないという2点により、管理組合の請求を棄却しています。

 したがって、ペットの退去に関する履行の確保については、別の手段を検討しなければなりません。たとえば、禁止請求にも従わなかった場合には次の手段として競売請求を行うことや、ペット飼育禁止の請求ではなく、ペットの退去を求める請求を行い、強制執行において、執行官にその義務を履行してもらう等の方法が考えられます。

義務違反者に対して採りうる措置2~損害賠償請求

ペット飼育行為により、その他の居住者個人との関係で、不法行為が成立するか否かも問題になります。

この点、猫への餌やり行為等が人格権侵害にあたると判断した東京地立川支判平成22年5月13日が参考になります。この裁判例によると、野良猫に対する餌付けを継続したこと、一部の猫に対しては住みかまで提供し飼育の域に達していること、猫のトイレへの配慮が充分でなかったこと等が理由とされ、居住者個人との関係でも不法行為を構成するものとされました。

損害額のうち、慰謝料額は、それぞれ2万円から13万円までの範囲で認容されました。この算定要素としては、被告専有部分との距離、原告の居住歴、建物所有の有無が考慮されています。

なお、「原告管理組合及び個人原告らの再三にわたる飼育及び餌やりの中止の申入れを拒否して,猫の飼育及び餌やりを継続し,その結果,原告管理組合は、・・・(中略)・・・弁護士に委任して本訴を提起せざるを得なかった」として、管理組合に対する不法行為の成立も認めています。

なお、こうした場合、不法行為により訴訟提起を余儀なくされたとして、弁護士費用相当額を別途請求することができます。

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