書評~「所有法と団体法の交錯 区分所有者に対する団体的拘束の根拠と限界」

 先日久々に区分所有法に関して論じた骨のある学術書に触れる機会に恵まれましたので、今回この場を借りてご紹介させていただければと思います。

 書名は「所有法と団体法の交錯 区分所有者に対する団体的拘束の根拠と限界」伊藤栄寿著(成文堂)。著者は大学准教授で私と同じ1978年生まれ、日本でも数少ない新進気鋭の区分所有法研究者のようです。

 まず、わが国では土地建物の共有という共有法(所有法)的な形態から発展して徐々に専有部分建物の区分所有権と共用部分建物・共有土地の共有持分権というそれぞれの権利が形成され、基本的に分離処分できないものとして枠付けられていったこと、時代の進展による区分所有建物の大型化・老朽化につれて区分所有建物の管理にまつわる区分所有者間のトラブルも増大し、区分所有建物管理における団体的拘束強化の必要性が否応なく高まってきたことから、区分所有法の規定も、区分所有者らが区分所有建物において事実上団体類似の規律関係を形成していることに着目し、共有法的アプローチから団体法的アプローチに基づくものへと変貌してきていることを時代の変遷を追いつつ具体的に明らかにしてゆきます。

 しかし、著者はこの団体法的アプローチはわが国の物権法体系の枠組み(特に土地と建物とが別個の不動産とされていること)に鑑みると理論的に採用困難な面があり、実質的にも区分所有権の制限を認めることに歯止めがかからなくなりかねないと批判し、ドイツの住居所有権法(特に2007年法)におけるアプローチの仕方を参考とすべく、同法へと考察の中心を移していきます。

 次に、ドイツにおいても、共有法的アプローチと団体法的アプローチとの我が国よりもより精緻で根深い理論的対立があることを解説した上で、やはり理論的にはドイツの判例通説が採用する共有法的アプローチを基盤とせざるをえないが、実際的な問題解決のあり方としては団体法的アプローチの問題意識を酌んでゆく必要があるため、2007年法は両アプローチを止揚するものとしての新しい観点、帰納的アプローチに移行したとします。著者も共有法的アプローチは基盤に置きつつも、実際の山積する区分所有建物の管理に関する問題を前にしては、区分所有者の権利制限の必要性と許容性を個別に帰納的に考察するほかない、という帰納的アプローチに基本的に理解を示します。

 その上で、わが区分所有法に立ち戻って管理、変更、競売請求、規約、建替えの各規定の定める議決要件、手続要件の妥当性を理論的立場から検討してゆきます。この中では、区分所有権のあくまでも所有権としての立場から、共用部分の変更に関しては法定要件に加えて「管理の円滑化・適正化」に資することという要件を付加すべきである、建替えに関しては、法定要件に加えて①老朽、損傷、一部滅失その他、建替えを必要とする理由が存在すること(理由要件)、②建物の建替えをしないとした場合において、当該建物の効用の維持または回復をするのに過分の費用が必要になること(費用要件)を付加すべきであると主張しているのは注目に値します。一方で、著者はこれらの要件が満たされるならば、たとえば建替え決議要件として区分所有者と議決権のそれぞれ5分の4以上の賛成が法律上要求されているのは逆に厳格にすぎるのではないかと指摘し、実務において要請されるバランスにも配慮を示します。

 東日本大震災の発生後、変更や建替えの要件が厳格にすぎるとの主張が一方で出ている中、区分所有法が区分所有建物の所有権としての性質と現実の管理、建替え等の必要性とをどのように調和させてゆくべきなのか、近時の問題意識をも反映した本書の所論を参考にしつつ、今後のさらなる議論が待たれます。

 以 上 

 

(神奈川県マンション管理士会会報平成23年9月号より転載)

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