マンション管理組合の理事会が総会決議を経ずに理事会決議のみで交通費の増額や役員報酬の支給を決定し実行に移す。このようなことが許されるのでしょうか。
このほどこの点を争点とした判決が東京高等裁判所で下されました(平成29年11月21日付判決。第一審判決は平成29年5月17日前橋地方裁判所判決)。
この事件では、群馬県草津市にある築約30年のマンションの管理組合法人が原告となりました。元理事長や元理事2名が被告として訴えられましたが、訴えられた時点ではそれぞれ数年~十数年程度理事長職または理事職を務め上げ、全員既に退任していました。
本件では、もともと理事会が区分所有者による資料の閲覧請求を拒絶したり、修繕工事を総会の事後承認で実施する、理事関係者の業者に修繕工事を依頼しているなどのうわさが流れていたことから、元理事長らの退任後に管理組合法人が「調査委員会」を立ち上げて調査したところ、高額の商品券や飲食代の領収書が役員報酬支払いの証拠として発見され、理事会単独の決議で事実上の理事長手当や役員報酬が元理事長らに支払われている事実が発覚したものです。
裁判所は、一審、二審を通じ、交通費の増額や役員報酬の支給の決定には総会決議が必要であると判断し、総会で予算さえ組まれていればその支出の具体的な費目や金額は理事会の決議に委ねることができる、という元理事長らの主張を斥けました(元理事2名については控訴審で和解が成立)。
本件では、区分所有者側も決して手をこまぬいていたわけではなく、元理事長らの在任時期から総会での問題提起や資料の閲覧請求は行われていましたが、元理事長は自らに集まる委任状を武器にこうした追及をかわし続けていたようです。
本件では、役員報酬に関する管理規約規定における総会決議の必要な事項として
第49条9号
「役員の選任および解任ならびに役員活動費の額および支払い方法」
とされていましたが、本件のような理事会決議のみでの理事会交通費の増額や役員報酬の支給という事態の発生を避けるためには、役員報酬に関する管理規約規定に、総会決議の必要な事項としてたとえば
「役員の選任および解任ならびに役員活動費の具体的な費目、その内容、額および支払い方法」
などとより具体的に記載する方法が考えられます。
その他にも監査の強化による理事会に対する監視体制の充実など、本件のような事態の発生を防止するための方策を考えることは可能です。
なお、その他に、裁判所は交通費の定額支給制度(本件では理事会1回あたり1万円からその後1万5000円へ増額)は実費精算の際に実費額を証明してそれを確認するなどの煩雑な処理を避ける上で合理的な制度であると判断したことが本裁判例では参考となります。
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